BOB DYLAN - NEWPORT FOLK FESTIVAL 1965(1CD)
Festival Field, Newport, Rhode Island, USA 25th July 1965 STEREO SBD
ボブ・ディランのキャリアはもちろん、当時の音楽界の流れまで変えてしまうほどの衝撃をもたらした1965年のニューポート・フォーク・フェスティバル。彼がバンドを従えてステージに上がった歴史的な瞬間を捉えた映像や音源に関しては古くから散発的にリリースされてきたものの、その衝撃的なステージをドキュメントするには発掘が十分ではなかった。むしろ意外なほどおざなりにされてきたと言ってもいいかもしれません。確かにバンドセットはすべての曲が早くから出回っていたものの、実のところディランは前日のステージにおいても演奏を披露しており、おまけに従来通りの弾き語りステージだった。
よってバンドセットばかりに注目が集まってしまい、前日のステージなどはベールに包まれていたのです。ところが21世紀を迎えると音源と映像の両方で充実した発掘が実現。『NO DIRECTION HOME』に『THE OTHER SIDE OF THE MIRROR』といった映像リリースによって二日目のバンドセットだけでなく、初日の弾き語りステージの全貌も一気に明らかとなった感があります。
それでもなお、この伝説のステージをまとめたリリースが存在しなかったというのは不思議で仕方ありません。それはマニアにとっても同様で、既に10年以上前には当時出回っていた音源を駆使してまとめ上げたファイルがコアなマニアの間だけに広まっていたのでした。そこでは演奏シーンはもちろん、フェスティバルのドキュメンタリー映画『FESTIVAL』で垣間見られたバンド・リハーサルの場面の音声まで収録するといったマニアならではの行き届いた内容でした。
今回はこのファイルを元にしてさらにアップデート&レストア。問題は『NO DIRECTION~』や『THE OTHER~』において、明らかに後付けの演出がほどこされていたということ。
というのもディランがバンドを従えたステージはフォークのフェスティバルにおいてロックな演奏を披露したことからブーイングを浴びたという伝説が広まっていた。ところが実際の音源では確かに会場が騒然としている様子こそ伝わってきたものの、ブーイングがまるで聞こえない。そこで『NO DIRECTION~』や『THE OTHER~』制作された際には伝説を演出すべく、せっかくのステレオ・サウンドボードに新たにブーイングの効果音が付け加えられてしまったのでした。
中でも「Maggie's Farm」の演奏が終わったところはあまりにも演出臭い。そこで今回は同曲のエンディングを『FOLK ROGUE』といった過去のアイテムのステレオ・サウンドボード音源に差し替えてうそこブーイングを排除。それでも次の「Like A Rolling Stone」開始前の間などはまだブーイングの音が少し残ってしまっていますが、この編集によって「Maggie's Farm」終了時のわざとらしさが一気に解消。
さらに21世紀を迎えて判明した衝撃の事実としては、前日の弾き語りステージでまだ録音前だった新曲「Tombstone Blues」を演奏していたこと。これまた2015年に晴れてコンプリな音源が公表され、さっそく『LEICESTER 1965』のボーナストラックとしてリリース済。ところが今回はそこからの流用ではなく、元の音源に遡って演奏後半に混入していたノイズを最新テクノロジーで削除した上で収録。これは『LEICESTER 1965』リリース時には出来なかったアジャストだったのです。
また翌日のバンドセットに関しても「It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry」(当日の曲名は「Phantom Engineer」でしたが)を『FOLK ROGUE』バージョンでなく、代わりに2015年に公表された新ミックスに差し替え。
そしてマニア製作の元ファイルでは「Mr. Tambourine Man」で二種類の映像の音声を編集してコンプリに仕上げていたものの、そこで生じていたピッチの違いもきっちりアジャスト。元のファイルではディランのハーモニカ・ソロからソースが切り替わると同時にピッチが落ちてしまっていたのですが、まるで違和感の状態へと生まれ変わりました。
こうしてまとめ上げられた演奏を通しで聞いてみると、なるほど前日の午後には従来通りの弾き語りを聞かせてくれていたディランが次の日の夜にエレキバンドに豹変すればフォーク・フェスティバルの観客が戸惑うのも仕方がないかと。
特に「Maggie's Farm」はマイク・ブルームフィールドのギターが唸るハードな演奏であり、その破壊力は未だに色褪せていない。次に演奏された「Like A Rolling Stone」はシングルとしてリリースされた直後というタイミングはもちろん、何とライブ披露自体が初めて。つまりディラン永遠の名作となる本曲のライブ初演がニューポートだったのです。
しかもバックを務めるバタフィールド・ブルース・バンドのベーシスト、ジェローム・アーノルドが慣れない曲調に音を上げてしまい、本来ならオルガンを弾くべきアル・クーパーが代わりにベースを弾くという驚きの展開に。
この一件からも察しがつくように、当日になってバタフィールド・ブルース・バンドという新しいおもちゃを見つけたディランが急遽バックを頼んだものの、さすがに三曲しか練習する時間がなかった。そのせいで「Maggie's Farm」のような勢いのある演奏の一方で「Like A Rolling Stone」はまるで学園祭バンドのような拙い演奏となってしまいます。そしてもう一つの新曲「It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry」はブルームフィールドのギターが冴える演奏となりましたが、終わるやいなやディランが「OK, let’s go」と呼び掛けているように、バンドでの演奏はここまで。
あまりに衝撃的な演奏であった反面、たった三曲でディランのステージが終わってしまったことも会場が騒然となった要因とされています。この状況を収めるべく弾き語りのステージを披露せねばなく、それが彼にとって不本意な結果となった模様。実際ディランに弾き語りを哀願したPP&Mのピーター・ヤーローの切実な様子からも伝わってきます。
そうした激動の流れがこれ一枚で手に取るように解ることでしょう。そしてボーナスには映画『FESTIVAL』の撮影班によって収録された(古くからおなじみの)モノラル・サウンドボードでのバンドセットを収録。これを聞けば確かに会場が騒然となってはいたものの、ブーイングはまるで聞こえないことが解ります。なるほど演出で付け加えたくなる訳だ(笑)。それにモノの方がバンドセットの迫力が感じられるというアドバンテージも。こうして全編サウンドボードにてまとめられた、文字通り歴史的なドキュメント・アルバム!
★ディランが初めてエレキバンドで演奏して、一大騒動となった1965年ニューポートフォークフェスティバルのアルバム。
(64:22)
Contemporary Songs Workshop 24th July 1965
1. All I Really Want To Do (excerpt)
2. Tombstone Blues
3. If You Gotta Go, Go Now (excerpt)
4. Love Minus Zero / No Limit
Afternoon Rehearsals 25th July 1965
5. Maggie's Farm
6. Like A Rolling Stone
Evening Stage 25th July 1965
7. Peter Yarrow Introduction
8. Maggie's Farm
9. Like A Rolling Stone
10. It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry
11. Peter Yarrow announcement
12. It's All Over Now, Baby Blue
13. Mr. Tambourine Man
14. Closing
Bonus tracks: Electric Set mono mix
15. Peter Yarrow Introduction
16. Maggie's Farm
17. Like A Rolling Stone
18. It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry
STEREO SOUNDBOARD RECORDING
(メーカーインフォによる)